小説【Schwarz Schneide

出会い 5



 よく晴れた朝。エルヘブンの街が、再び活気に包まれはじめる。そこに、一人悪戦苦闘している男がいた。
「レヴリス、起きろ」
 まだ熟睡しているレヴリスの肩を軽くたたく。これで3度目だ。しかし、何の反応もない。エフィは溜息をつき、もう一度呼びかけた。
「おい、もう朝だぞ」
「ん〜〜〜〜…」
 そこに、ミステールとミリアが入ってきた。もう、二人ともきちんと身支度ができているが、ミステールはまだ眠そうに目をこすっている。
「おはようございま〜す…。って、レヴリスさん、まだ寝てるんですか〜??」
「あぁ、さっきからこのありさまだ」
 お手上げ、といった様にエフィは首を横に振る。ミステールは、レヴリスの耳元でささやいた。
「レヴリスさ〜ん、起きてくださ〜い。もうすぐラクウェルさんが来るんですよ〜」
「うう〜〜」
「レヴリスさんったら〜」
 ミステールの声が、段々イラついてくる。そのミステールの背後に、ミリアが立つ。
「…」
 無言で、腰に差していた短剣を抜く。
「…ミリアさん…?」
 そして、無言のまま、その短剣を眠っているレヴリスの顔をかすめて、ベッドに突きたてた。その殺気に、レヴリスはようやく目を開けた。
「…ん…?」
 顔のすぐ横に、自分の寝起きの間抜け面があった。その姿を映しているのは、白刃の短剣…!
「うわっ!!!」
 思わず、飛び起きた。あと数センチずれていたら、顔が血まみれになるところだ。
「な、何するんですか!」
「…起きたか」
 短剣を鞘に収め、にやりと笑うミリア。ミステールとエフィの目が点になっている。
「最後の仲間、ラクウェルがもうじき来る。間抜け面をしてないで、早く支度をするんだな」
 ミリアの口調は冷たいが、驚くレヴリスの様子を半ばおもしろがっている様だ。レヴリスはようやく今の状況を理解し、慌てて身支度をはじめた。まだ、心臓がドキドキしている…。

「いや〜、すいません。僕、寝起きは最悪なんです。なかなか起きなかったら、殴ってやってもいいですから」
 酒場『水飼亭』の昨日と同じ席で朝食をとりながら、レヴリスは笑った。つられたように、ミステールも笑う。
「レヴリスさんって、おもしろい人なんですね」
「言っておくが、このパーティーに馬鹿は要らない。その辺は大丈夫だろうな?」
 釘をさす様に言うミリア。しかし、まだレヴリスをおもしろがっている表情は消えていない。続けて、独り言の様につぶやいた。
「…期待している」
「??」
 その意味が掴めず、首をひねる。ミステールがレヴリスを見て、軽く頷いた。昨日の夜、ミステールがミリアに何かを言ったらしい。それがどんな事かはわからないが、レヴリスにとって不利になるような事でないのは確かだ。
 4人が食事を終えると、店員が来て来客を告げた。どうやら、パーティーの最後の一人、ラクウェルが到着したようだ。
「はじめまして、ラクウェルです」
 明るい声で登場したのは、長い黒髪が印象的な、美しい女性だった。柔らかな微笑みで、4人を見つめている。黒い魔術師用の法衣を身に纏っているところを見ると、黒魔術師のようだ。ミステールはラクウェルに隣の席に座る様に促した。
「ラクウェルさん、やっと会えましたね」
「もう、大変だったのよ〜。昨日の夜やっと街に着いたと思ったら、変な路地に迷いこむわ、街外れの墓地の方まで行っちゃうわ。そこで幽霊みたいなのに出くわしちゃって…」
 ミステールの隣に座ると、長いまっすぐの髪を手で梳きながら、話し出した。
「その幽霊が、私に向って『魔道書を返せ〜』って言ってくるの。話を聞いてあげたら、どうやら魔道図書館っていうのが昔この街にあって、幽霊はそこの館長さんだったらしいのよ。魔道図書館には秘術の書とかも保管していて、それを狙った盗賊達に館長さんは殺されちゃったらしいのよ…」
 この街の歴史を知るには興味深い話だが、場所が場所だ。他の客がちらちらとこっちを見ているのに気づいて、ラクウェルは照れ笑いを浮かべた。
「…ここではちょっとそぐわない話だったかしら。まぁ、旅の途中でもっと詳しく話してあげるわ」
「よし、全員揃ったなら、さっそく街道に出るとするか」
 エフィが立ちあがった。それを合図に、他の4人も立ちあがる。まだレベルも低く、お互いの素性も知らない5人。しかし、一人一人が目的を持って旅を続ける中で、大きな何かを見つけていく事だろう。
『水飼亭』を出ると、どこまでも青空が広がっている。その青空の下に、一つのパーティーは完成した。

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