小説【Schwarz Schneide

出会い 4



 その夜。
 なかなか眠りにつくことができず、ベッドに横たわったまま、レヴリスは目を開けた。部屋の窓が開いているが、風は全くない。元々暑さにはあまり強くないが、アストローナの夏がこんなにも暑いとは思っていなかった。
 薄暗い室内。隣にはエフィの分のベッドがあるが、シワ一つないシーツの上の肌掛けも綺麗にたたまれたままだ。そこに彼の姿はない。薄目を開けて見渡すと、エフィは椅子を窓際に置き、外を眺めている様だった。
「眠れないのか?」
 レヴリスの様子に気づいて、エフィが言う。
「ええ、なんか暑くて…。僕の住んでいる国は、冬には雪が積もるほど寒い所なんですよ。だから、それに慣れちゃって」
「そうか。私も、この暑さは苦手だ」
 エフィの声は、先ほどよりも和らいでいる様に聞こえる。さっきは、人込みの中だったから話しづらかったのかもしれない。
「ねぇエフィさん、ちょっとお話しませんか?」
「いいだろう。そこだと声があまり聞こえない。こっちに来るといい」
 ベッドから起きあがって、エフィの座っている窓際に椅子を引きずって座る。そこには、月の明かりに浮かび上がる、清廉な戦士の横顔があった。窓を額縁に見たてると、一枚の絵のようだ。
「綺麗な月ですね。エフィさんって、月とか夜が似合う感じがします」
「私は、樹海に生まれしもの。星の夜に歩き、木々を母として生きる。闇の中を生き抜いてきた故、月夜にこの身が相応しいと言われるのも、当然だろうな。そして、私はそんな自分を今では誇りに思っている」
 歌の様に、呪文の様にエフィの言葉が流れる。レヴリスはその意味はよく理解していなかったが、その端正な顔にわずかの笑みが浮かぶのを見ると、嬉しくなった。
「よかった…」
「何がだ?」
「僕、こんななりですから、初めて会った人には怖がられる事が多いんです。昼間も、街を歩くのに人の目が気になって、マントや冠で羽根と角を隠して…。でも、この世界の人は、誰も僕を魔物扱いしなかった。それに、このパーティーの皆さんも。それが、すごく嬉しかったんです。こんな世界があったなんて…」
「お前も、辛い過去を背負っているようだな…」
「『も』って事は、エフィさんもですか?」
 そう言われると、一瞬だけ驚いた表情を見せて、うつむいた。
「そのうちわかるだろう。樹海の者というのはどんなものか」
「うーん?」
「…そろそろ寝ることにしよう。暑くて寝苦しいが、少しでも疲れを取っておかないと明日からが大変だ」
「そうですね」
 ふたたびベッドに横たわると、開けっぱなしの窓から微風が吹きはじめ、部屋のカーテンを揺らした。その涼しい風に体を撫でられながら、レヴリスは眠りについた。
「…」
 寝息をたてはじめたレヴリスを横目で見ると、エフィはそっと起きあがった。そして、また窓際に立ち、いつまでも外を見つめていた。

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