小説【Schwarz Schneide

出会い 3



 冒険者ギルド提携店である出会いの酒場『水飼亭』。あまり清潔とは言えない店内を酔っ払い達がたむろしていて、なぜか露出度の多い給使女が腰をくねらせて歩き回り、音だけはやたらと大きい楽団が喧騒にさらに追い討ちをかけていて…そんな店を覚悟していたレヴリスだが、ここは酒場という名前とは程遠いイメージの店だった。
 都会のおしゃれなレストランといった雰囲気で、客層も割と品の良さそうな人達が多い。入り口で上品なメイド姿の店員に案内されて中に入った二人は、店の奥の方へ歩いていった。
「ただいま、レヴリスさんを見つけてきましたー」
 嬉しそうにミステールが声をかける先には、二人の冒険者の姿があった。二人とも、外した剣帯が脇においてある。戦士の様だ。一人は赤い髪に使いなれた革鎧姿の物静かそうな青年。もう一人は、鮮やかな緑の髪をすっきりとまとめた、博識そうな女性。二人はレヴリスを一目見ると、立ちあがった。
 青年が言う。
「…エフィだ。剣士を志している」
 ぶっきらぼうな口調と鋭い眼光に、レヴリスは少しだけたじろいだ。しかし、その瞳の奥に寂しげな光がほんの少し見えたような気がした。
 ついで、女性が手に持っていた十字架をテーブルに置いた。
「私はミリア。皆と同じ、エルヘブン出身だ。私は信じるものの為にのみ戦う」
 ミリアと名乗った女性は、話し方や物腰が少々高慢な感じだが、どことなく気品がある。しかし、突然身分の事などを聞くのは無礼だろう。そう思って、レヴリスは二人に微笑みかけた。
「えっと、僕はレヴリス・イーズって言います、鍛冶職人です。このたび、皆さんのパーティーに入ることになりました。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく頼む。ところで…ラクウェルはまだ来られないのか?」
 ミリアがミステールに問い掛けた。
「えぇ、ちょっとしたギルドの手違いで、こちらに来るのは明日になるみたいです」
「そうか。では、本日はここの宿をとるのだな?」
「あっ、そうでしたー。部屋の予約をとってきますねー」
 ぱたぱたとカウンターに駆けて行くミステールを見ると、レヴリスはエフィの隣の椅子に座った。
「大きい剣ですね…ちょっと見せてもらっていいですか?」
 レヴリスをちらりと見て、エフィは静かに答える。
「…刃には触らない方がいい。使い慣れない者がその剣に触ると、怪我をする事になる」
「へーぇ…」
「…」
 会話が途切れる。そして、3人の間に沈黙の時が流れる。
(こういう雰囲気、なんだかちょっと苦手かな〜…)
 レヴリスがエフィの剣を戻して、店員の持ってきたコーヒーを一口飲んだ。エフィは、その鋭い視線でレヴリスを一瞥し、溜息ともつかぬ吐息を吐く。
 その長い沈黙を破って、ミリアが申し訳なさそうに言う。
「すまない、我々は会話が少々苦手なのでな」
「いえ、気にしないでください。僕ちょっと緊張してるだけなんです。これから皆さんで旅をするんですから、じきに慣れますよ」
「そうだといいな。私も、皆ともっと打ち解けられる様に、努力するべきか」
 微笑み、ゆっくりと紅茶をすするミリアの動作を見て、レヴリスは思った。
(この人、王族か貴族出身かな…)
 そこへ、ミステールが鍵をじゃらじゃらと鳴らして戻ってきた。
「部屋、二つとってきました。これがエフィさんとレヴリスさんの部屋、こっちが私とミリアさんの部屋の鍵です。そろそろ部屋に入りましょう、明日も早いですからね」
 レヴリスが鍵を受け取ると、ミステールとミリアは酒場横の階段を上がっていった。二人の姿が見えなくなると、エフィにそっと声をかける。
「僕達も、部屋に行きませんか?店の中も混んできたみたいですし」
「そうだな」
 一言で返すと、エフィは脇の剣帯を腰に付け、立ちあがった。その左腕に、大きな傷跡がちらりと見えた。しかし、レヴリスは何も見なかったように、目をそらした。

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